直腸がん Total neoadjuvant therapyとは?

直腸がんの術前放射線療法

欧米ではStage II–III直腸がんに対し術前治療が用いられ、
標準術前治療は化学放射線療法 (28–30 Fractions+ 5-FU or Capecitabine) (LCCRT)
または短期間放射線治療 (5 Fractions) (SCRT)である。

これらの治療方法は生存期間、有害事象などで同等であり、
NCCN🇺🇸やESMO🇪🇺のガイドラインではLCCRTとSCRTは互換性ありとみなしている。

明確な切除断端を目指すときや、括約筋温存のため腫瘍を大幅に縮小するときは
LCCRTを選択するとしている。


直腸がんは結腸がんと比べ再発割合が高く、
局所再発も遠隔転移への治療が重要な中で
Total adjuvant therapy (TNT)という治療戦略が出てきた。


Total adjuvant therapy (TNT) とは

1. neoadjuvant chemoradiotherapyによる局所制御
2. 全身療法による遠隔転移低下させる
3. 根治手術する

という一連の治療である。

近年"RAPIDO trial🇳🇱"や"PRODIGE 23 trial🇫🇷"
と立て続けに大型のPIII結果がpublishされた。
現時点のTNTの立ち位置を整理していく。

TNTに絡む背景や知っておくべきこととして、

1. 直腸癌のかなりの割合(特に高リスクの特徴を持つ患者)で腫瘍再発を認める。
👉更に治療強度を高める必要性

2. 術前放射線治療と質が高い手術が実施されている場合、
術後化学療法の有用性は示されてこなかった (例外としてPIIあり)。
👉"traditional approach"よりも他の戦略をとる必要性

3. 放射線治療の効果が腫瘍の縮小時間に依存することを示唆するデータが出てきたことで、
放射線治療と手術の間隔を徐々に延ばすようになり、
結果術前化学療法を連続して行う機会が増えた。
👉CRTとOPの間にChemo

4. 術前療法強化により臨床的完全寛解(cCR)を達成する患者割合が増加し、
生存期間延長や長期的な機能的転帰などの観点
👉治療戦略としての"Watch & Wait"の可能性もでてきた

などがあげられる。

RAPIDO trial🇳🇱



Primary endpointは"3年のdisease-related treatment failure (DrTF)"で、
TNT群が23.7%に対して試験群で30.4%とHR 0.75(95%CI 0.60–0.95)で有意差を認めた


ここで"disease-related treatment failure"とは局所障害、遠隔転移、新規の原発性大腸腫瘍、
または治療関連死亡が初めて発生した場合と定義している。

Distant metastasesだけに関してもTNT群が20.0%, 試験群が26.8%で有意差を認め、
pCRは28% vs. 14%とdouble scoreをつけ、3年のOSは変わらない結果であった。

PRODIGE 23 trial🇫🇷



Primary endpointは"Disease-free survival (DFS)"で、
TNT群が76%に対して試験群で69%とHR 0.69(95%CI 0.49=0.97)で有意差を認めた

Metastases-free survivalもTNT群:試験群=79%:72%と有意に差を認めた。

pCRはTNT群:試験群=28%:12%、3年のOSは変わらないという結果であった。
DrTFやDFSの改善に最も貢献したのは遠隔転移の制御によることが興味深い。


両試験の日常臨床への活用

このpaperでは各trialの患者特性、成績などについて表にまとめている。


残る疑問点として

1. TNTをすべき対象とは?
2. 導入化学療法のレジメンは?
3. PRODIGE 23における術後化学療法の位置づけ?

を挙げ、

さらにFig.2 には2つのトライアルを踏まえた
StageII-III直腸がんの治療アルゴリズムの提案がなされ一読に値する。

※memo:
このFig.2でのT3a/b, T3c/dはCAP protocolに基づくと思われる。
T3a/b: 腫瘍が固有筋層を介して漿膜下または腹腔周囲もしくは直腸周囲の非腹膜軟部組織に浸潤し、固有筋層の境界を越えて5mm以下に浸潤しているもの。
T3c/d: 腫瘍が固有筋層を介して漿膜下または腹腔周囲もしくは直腸周囲の非腹膜軟部組織に浸潤し、固有筋層の境界を超えて5mm以上浸潤しているもの。

他の論文 (PMID: 33287114)でもよくまとまっておりチェックしておこう。

また直腸がんのASTRO guidelines🇺🇸 (PMID: 33097436)
一読しておさえておきたい。

TNTはまだまだ取り入れるところは少ないが、
JCOGで臨床試験の検討をしているようで今後も要フォローである。