投稿

3月, 2022の投稿を表示しています

脳幹転移 定位放射線治療

イメージ
 目次 1.  背景 2.  過去の報告 3.  紹介論文 4.  所感 背景 脳幹以外 ( ・・・・ ) の 脳転移への定位放射線治療では 高い局所制御割合(81%)が見込め、 全脳照射の様な神経認知障害を起こすことは少なく 幅広く用いられている。 一方で脳幹転移はそもそもの所在そのものから 切除対象には適さないものの、 脳転移の定位放射線治療に関する 大半の前向き試験では脳幹転移は 除外されてきたのが実情 だ。 しかし こうした背景があっても 日常臨床でのニーズがあり散発的に 脳幹転移定位放射線治療の報告がなされてきた。 過去の報告 比較的大きな報告の例としては Virginia大学のものがある。 PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26341374/ Brainstem metastases treated with stereotactic radiosurgery: safety, efficacy, and dose response - PubMed 日本🇯🇵からの報告としては この単施設がある。 PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23205785/ Gamma Knife surgery for patients with brainstem metastases - PubMed 紹介論文 PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33983393/ Efficacy and Safety of Stereotactic Radiosurgery for Brainstem Metastases: A Systematic Review and Meta-analysis - PubMed 全部で32の後向き研究 ("前向き"はゼロ)を対象に 脳幹転移定位放射線治療による 局所制御や生存割合、中枢神経死、有害事象 などを評価している。 患者・腫瘍データ median 年齢 = 58 median KPS = 80 median f/u = 8.5ヶ月 原発疾患は肺

海馬よけ予防的全脳照射 (HA-PCI)

イメージ
 目次 1.  全脳照射 (PCI除く) 2.  PCIについて 3.  🇪🇸PREMER trial 4.  所感 全脳照射 (PCI除く) 🇺🇸RTOG0614 PCIではない全脳照射 (WBRT)関連の 薬剤を用いた試験といえば 🇺🇸RTOG0614 (WBRT+Memantine vs. placebo)だ。 RTOG0614は メマンチンの追加により 認知機能低下までの時間が長くなり、 6ヵ月後の認知機能不全の確率が減少する ことを示した。 そのため薬剤はこのメマンチンを使用することが多い。 ちなみにこの研究でメマンチンは 放射線治療開始日と同時に投与され、 第1週目は1日5 mg、第2週目は1日5 mg×2回、 第3週目は朝10 mg、夕 5mg、残りの第4–24週目は 1日10 mg×2回を経口投与と合計6ヶ月間継続された。 🇺🇸RTOG0933 PCIではない全脳照射 (WBRT)関連の 海馬線量低減を採用した試験といえば 🇺🇸RTOG0933 (single-arm PII HA-WBRT)だ。 この研究ではIMRTベースで海馬線量を下げたWBRTを受け、 認知機能とQoL評価を、ベースライン時、 放射線治療後2、4、6カ月目に実施した。 ベースラインから4カ月後までの 遅延想起測定値の相対的低下は、 ヒストリカルコントロールよりも有意に低い という結果で、 HA-WBRTは記憶やQoL維持と関連するという結論であった。 🇺🇸NRG-CC001 MemantineやHA-WBRTの知見が蓄積される流れで 2020年にpublishされたのが🇺🇸NRG-CC001だ。 WBRT+メマンチンとHA-WBRT+メマンチンを比較し、 HA-WBRTがより認知機能と患者報告の症状の面で良好な結果を示し、 更にOSや頭蓋内PFSで差がない との結果であった。 これらはPCIを対象としていないが、 最近のNCCN guidlines (Version 1.2022)では memantine使用を検討するよう書かれている。 PCIについて PCIの有名論文 伝統的に

小細胞肺がん脳転移 定位放射線治療

現状 小細胞肺がんでは 約40–60%と高い脳転移 の傾向を認め、 初期治療で良好な治療効果を認めた 限局型または進展型では 予防的全脳照射 を行うことが 推奨されているガイドラインが多い。 NCCN guidelinesでは 小細胞肺がんの脳転移に対しては 全脳照射 (WBRT) を推奨 している。 これは大半の固形腫瘍がん原発の 限定的な脳転移に対しては 定位放射線治療を行うことが 標準的 になってきていることとは対象的である。 全脳照射は頭蓋内の局所、遠隔病変の 制御に有効であるが、 認知機能やQoLに関する 毒性への懸念 の高まりもあり、 複数の無作為化試験が行われ、 定位放射線治療がWBRTに比べ 改善することが実証されている。 しかし、様々な要因から 小細胞肺がんはこれら無作為化試験の 対象から除外されてきた。 そのためSRSのデータが少なく、 たとえ1個の脳転移であっても WBRTを選択することが多かった 。 MRIの進歩やWBRTによる 神経毒性の認知度上昇も相まって、 小細胞肺がんのかなり選択した対象に SRSを実施すべきでは と 近年言われるようになってきた。 紹介論文 PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34171453/ Stereotactic radiosurgery for brain metastases from small cell lung cancer without prior whole-brain radiotherapy: A meta-analysis - PubMed 初回治療にSRSを実施した PCIやWBRTの照射歴のない 小細胞肺がんを対象に 9の研究を含めたメタアナリシスである。 患者・腫瘍データの中央値 Age = 64 KPS 80 #BM = 2 SRS dose = 18 Gy (17–21) PTV 1 mL f/u duration = 8 months SRS単独の場合OS中央値は8.3ヶ月 で、 WBRTと比べても有意差はなかった。 1年後のLCについては93% と 他がん腫の脳転移と同様に 高い制御割合であった。

小細胞肺がん 体幹部定位放射線治療

肺がん診療ガイドライン I–IIA期の小細胞肺がんの手術可能例では 外科治療が推奨されている一方、 放射線療法のうち 定位放射線治療は 「推奨の強さ:2, エビデンスの強さ:D」と 弱く推奨されていている。 メタ解析 PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34330566/ Stereotactic ablative radiotherapy in T1-2N0M0 small cell lung cancer: A systematic review and meta-analysis - PubMed このメタ解析では7本(🇯🇵含む)をもとにしている この報告によれば Local control 1年=97%, 2年=96%, 3年=94% Overall survival 1年=86%, 2年=64%, 3年=55% 毒性 Gr.1 = 12.6%, Gr.2 = 6.7%, Gr.3 = 1.4% (相対的過大評価の1研究を除外すれば0.6%), Gr.4/5 = 0% 再発形式 リンパ節再発=17.8%, 遠隔再発=26.9% とされている。 ASTRO guidelines PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32222430/ Radiation Therapy for Small Cell Lung Cancer: An ASTRO Clinical Practice Guideline - PubMed 定位放射線治療はASTRO guidelinesでも推奨されているが、 再発形式 (リンパ節、遠隔)の程度から考えると 定位放射線治療と化学療法の併用を 考慮 したほうがよさそうである。 また、 治療前のPET/CT での 確認も重要である。 ASTRO guidelinesでは 総線量や分割回数への言及はなく、 このあたりは各施設で プロトコル整備する他ないのが現状である。 小細胞肺がんT1–2N0M0で 手術や定位放射線治療を受けた対象へ 予防的全脳照射が要るのかどうかもCQである。 そもそも、LS-SCLCに対する

膵がん Total neoadjuvant therapyとは?

イメージ
Total neoadjuvant therapy 直腸がんに対する Total neoadjuvant therapy (TNT)について、 以前 RAPIDO 🇳🇱や PRODIGE23 🇫🇷を取り上げた。 http://radiooncol.blogspot.com/2022/02/retal-cancer-total-neoadjuvant-therapy.html 直腸がん Total neoadjuvant therapyとは❓ その中でTNTは 1. neoadjuvant chemoradiotherapyによる局所制御 2. 全身療法による遠隔転移低下させる 3. 根治手術する という一連の治療であると説明した。 実はこのTNTは 膵がんでも注目されている戦略だ。 膵がんの術前治療 膵癌診療ガイドラインでは 局所膵がんはその切除可能性 (resectability) により 1. 切除可能 (Resectable:R) 膵癌 2. 切除可能境界 (Borderline resectalbe:BR) 膵癌 3. 切除不能 (Unresectable:UR) 膵癌 に分類される。 第7版取扱い規約ではこれらは 上腸間膜動脈、腹腔動脈、総肝動脈、固有肝動脈の動脈系と 門脈(PV)、上腸間膜静脈(SMV)の門脈系との 関係で分類される。 放射線治療は局所進行"切除不能膵癌"に対しての一次治療として 化学療法単独か化学放射線療法 (CRT)かの文脈で登場する。 生存期間中央値に大して差がないということで、 各施設で"切除不能膵癌"に 化学療法単独かCRTにするかは あらかじめ決めていることも多いだろう。 ちなみに CRTで同時併用される化学療法は ✅GEMまたは✅フッカピリミジン系抗がん剤 (🇯🇵S-1, 🇺🇸🇪🇺Capeが主流) だ。 他方、"切除可能境界膵癌"は"切除可能膵癌"よりも 1. 潜在的転移リスクが高い 。 2. 血管再建を伴う複雑な外科的切除が必要となる可能性が高く、マージン陽性となる割合が高い 。 この

中枢性肺がん 定位放射線治療

イメージ
No-fly zone 2012年のNEJMの症例報告 (PMID: 22694017) をはじめ 中枢性肺がんに対する体幹部定位放射線治療は 末梢性肺がんよりも毒性が増す ことが知らている。 TimmermanらによるPII study(60–66 Gy/3分割) (PMID: 20233825) によれば重篤な有害事象が 末梢性の 11倍 認められ、 主気管支や葉気管支から2cm以内を "飛行禁止区域 ( No-fly zone )"と名付けた 。 Centralとは? そもそも"中枢性肺がん (==central)"の 一般的に受け入れられている定義には大まかには RTOG と IASLC の2つがある。 RTOG definition 腫瘍が近位気管支 (気管、気管分岐部、左右主気管支、左右上下葉枝、中間幹、右中葉枝、舌区枝) から 全方向で2 cm以内 と規定。 IASLC definition あらゆる縦隔リスク臓器 (気管支、食道、心臓、腕神経叢、大血管、脊髄、横隔神経、反回神経など) から 2 cm以内 と規定。 このように両者は微妙に指し示すものが異なっている。 ちなみにRTOG定義にでてくる近位気管支は Proximal bronchial tree (PBT) と英語で称す。 "Central"の代表的論文 "Central"に関しては様々な 線量、分割回数、処方方法を用いた治療報告がなされてきた。 代表的な論文として 1. PMID: 19329210 2. PMID: 21892102 3. PMID: 22843088 4. PMID: 22265734 5. PMID: 24661665 6. PMID: 26472316 7. PMID: 25122433 などがある。 このように かつてのchallengingな治療という段階から 各施設なりのルールで実臨床使用する段階に 遷移してきていると思われる。 JROSG10-1🇯🇵 (60 Gy/8分割)やRTOG0813🇺🇸(60 Gy/5分割)を意識して 線量、分

早期声門がん IMRT/VMAT

イメージ
早期声門がんの標準治療 早期声門がんの治療では 放射線療法 (RT)または手術が 標準治療である。 (旧T2a, T2bへの治療の論議は触れません) RTと手術の head-to-headの比較試験はないが、 両治療法とも5年局所制御は 約90–95%で同等 である。 治療後の 音声の質に関しては同等ないし 僅かに放射線療法のほうがよいとされる。 現在 cTis, cT1aの声門がんに対する 経口的レーザー切除と放射線療法の 第3相多施設比較試験 (NCT04057209)が 進行中で音声の質についての結果が待たれる。 Conventional RT Conventional RTについて 放射線療法の照射方法は JCOG0701で代表される 矩形の照射野で左右対向の 照射 とすることが多い。 “Conventional”には 解剖学的目印をもとに 5 x 5 cm から 6 x 6 cm サイズの 照射野でRTを実施することが多い。 線量分割については、 寡分割照射がしばしば用いられ、 NCCN guidelinesでは1回2.25 Gy、 T1では28分割、T2では29分割 としている。 日本では NCCN同様もあれば、 JCOG0701 で標準分割回数に対する 非劣性証明ができなかったものの 治療回数減少の利便性などのメリットから 1回2.4 Gy (T1: 25分割, T2: 27分割) も オプション治療 として使われる。 Conventional RTの懸念点 咽頭収縮筋、甲状腺、頸動脈への総線量から 嚥下障害、誤嚥、甲状腺機能低下症、 脳血管イベント などの晩期有害事象の リスクが考えられる。 Stage0–IIの長期生存が多いことを考慮すれば これら晩期毒性を軽減する メリットは多分にある。 早期声門がんへのVMAT 現在 頭頸部がん放射線療法では 大半でIMRT/VMAT (以下VMAT)を使用する。 その結果2D/3D時代よりも 急性、晩期毒性を軽減していることは 周知の事実である。 しかし、早期声門がんは VMATではなく、3DCRTが用いられがちで、 取り残されている感がある。