膵がん Total neoadjuvant therapyとは?
Total neoadjuvant therapy
直腸がんに対するTotal neoadjuvant therapy (TNT)について、
以前RAPIDO🇳🇱や PRODIGE23🇫🇷を取り上げた。
その中でTNTは
1. neoadjuvant chemoradiotherapyによる局所制御
2. 全身療法による遠隔転移低下させる
3. 根治手術する
という一連の治療であると説明した。
実はこのTNTは
膵がんでも注目されている戦略だ。
膵がんの術前治療
膵癌診療ガイドラインでは局所膵がんはその切除可能性 (resectability) により
1. 切除可能 (Resectable:R) 膵癌
2. 切除可能境界 (Borderline resectalbe:BR) 膵癌
3. 切除不能 (Unresectable:UR) 膵癌
に分類される。
第7版取扱い規約ではこれらは
上腸間膜動脈、腹腔動脈、総肝動脈、固有肝動脈の動脈系と
門脈(PV)、上腸間膜静脈(SMV)の門脈系との
関係で分類される。
放射線治療は局所進行"切除不能膵癌"に対しての一次治療として
化学療法単独か化学放射線療法 (CRT)かの文脈で登場する。
生存期間中央値に大して差がないということで、
各施設で"切除不能膵癌"に 化学療法単独かCRTにするかは
あらかじめ決めていることも多いだろう。
ちなみにCRTで同時併用される化学療法は
✅GEMまたは✅フッカピリミジン系抗がん剤 (🇯🇵S-1, 🇺🇸🇪🇺Capeが主流)だ。
他方、"切除可能境界膵癌"は"切除可能膵癌"よりも
1. 潜在的転移リスクが高い。
2. 血管再建を伴う複雑な外科的切除が必要となる可能性が高く、マージン陽性となる割合が高い。
このような背景から
早期に遠隔転移を起こす患者を特定し、
非根治的な手術を行わずに済むようにし、
腫瘍の縮小とマージンの縮小によりR0切除割合を高めるため、
効果的な化学療法と化学放射線療法による導入療法を
行うべきだと考えてられてきた節がある。
転移性膵癌の全身療法レジメンとして、
5-FU/l-LV、CPT-11、L-OHP(✅FOLFIRINOX)や
✅GEM+nab-PTXがある。
これらは局所進行"切除不能膵癌”に対するレジメンとしても
✅GEM単剤、✅S-1単剤と並び推奨されている。
これら2レジメン
"切除可能境界膵癌"の術前補助療法に取り入れることで
外科的切除可能な患者を増やすことが試みられてきた。
もちろん"切除可能境界膵癌"に対する
"術前CRT"の有効性などをみようと
試験を組まれてきており、日本🇯🇵からは
Prep-03 (BR膵癌に対する術前治療としてのGS+RT 第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験) などがある。
膵がんTNTの注目論文
方法
2010–2020 publishされたPII, III を対象。
PI, retrospective研究, ケースシリーズ, 前向き観察研究などや
対象が30人未満の研究は除外。
局所進行"切除不能"または"切除可能境界"膵癌をに、
導入または地固め化学療法を行った後、または前に術前または根治的CRTを行った研究を対象。
結果
28研究が対象 (4 PIII, 4 RPII, 18 PII, 1 PI-II, 4 GERCOR studies)
"切除可能境界"が含まれる研究は7,
"切除可能"が含まれる研究は4,
"切除不能"が含まれる研究は23
24研究がChemo f/b CRT、
残り4の内3はCRT前後、
1つはCRT後にchemo
CRTでは22が単剤+RT 50–60 Gy (Table 2参照)
Chemo f/b CRTを終了した対象のうち
切除にいたったのは31.8%
"切除可能"膵癌を含む研究を除外すれば 19.9%
"切除不能"膵癌のみでは12.1%
"切除可能境界"のみの2研究では切除率は59.2%
FOLFIRINOX ベースだと切除率 65%
R0は78%
OS 34.5ヶ月 PFS 16.1ヶ月
GEM ベースだと8%
R043.5%
OS15.5ヶ月 PFS 10.5ヶ月
考察
TNTは"切除可能境界"膵癌でのmargin negativeが期待でき、
"切除不能"膵癌を切除可能へ持っていける可能性がある。
FOLFIRINOX-baseがGEM basedよりは
OS、PFS、R0、Overall resection rateの観点から
より良いレジメンかもしれない。
PSが良好ならばFOLFIRINOXかGEM+nab-PTXがいいかも。
今回の解析では20研究で"切除不能"膵癌が含まれ、13%で切除に至った。
第一世代レジメン(GEMのこと?)を使っていることが多く、
FOLFIRINOXを使うとより成績が改善するかもしれない。
課題、不明点として、
1. 多剤併用化学療法は少数で多くはGEMベースであった
2. RT内容が多様
3. モダリティの適切な順序
4. 化学療法期間
とし、TNTの推奨を定めるには情報が不十分である。
私見
TNTはまだまだ試験的な治療の位置づけ。
ただ、膵癌関連学会でもTNTが目立ってきてるし、
"切除可能境界"のR0上昇や"切除不能"を
"切除可能"へと遷移させうる魅力的な戦略だと思う。
今後も注視はしておいたほうがよいだろう。