海馬よけ予防的全脳照射 (HA-PCI)

全脳照射 (PCI除く)

🇺🇸RTOG0614


PCIではない全脳照射 (WBRT)関連の
薬剤を用いた試験といえば
🇺🇸RTOG0614 (WBRT+Memantine vs. placebo)だ。

RTOG0614はメマンチンの追加により
認知機能低下までの時間が長くなり、
6ヵ月後の認知機能不全の確率が減少する
ことを示した。

そのため薬剤はこのメマンチンを使用することが多い。

ちなみにこの研究でメマンチンは
放射線治療開始日と同時に投与され、
第1週目は1日5 mg、第2週目は1日5 mg×2回、
第3週目は朝10 mg、夕 5mg、残りの第4–24週目は
1日10 mg×2回を経口投与と合計6ヶ月間継続された。

🇺🇸RTOG0933


PCIではない全脳照射 (WBRT)関連の
海馬線量低減を採用した試験といえば
🇺🇸RTOG0933 (single-arm PII HA-WBRT)だ。

この研究ではIMRTベースで海馬線量を下げたWBRTを受け、
認知機能とQoL評価を、ベースライン時、
放射線治療後2、4、6カ月目に実施した。

ベースラインから4カ月後までの遅延想起測定値の相対的低下は、
ヒストリカルコントロールよりも有意に低い
という結果で、
HA-WBRTは記憶やQoL維持と関連するという結論であった。

🇺🇸NRG-CC001


MemantineやHA-WBRTの知見が蓄積される流れで
2020年にpublishされたのが🇺🇸NRG-CC001だ。


WBRT+メマンチンとHA-WBRT+メマンチンを比較し、
HA-WBRTがより認知機能と患者報告の症状の面で良好な結果を示し、
更にOSや頭蓋内PFSで差がない
との結果であった。


これらはPCIを対象としていないが、
最近のNCCN guidlines (Version 1.2022)では
memantine使用を検討するよう書かれている。

PCIについて

PCIの有名論文

伝統的にSCLCは
Veterans' Affairs Lung Study Group (VALSG)の分類にしたがい
Limited stage (LS)Extensive stage (ES)に分類されてきた。

LS-SCLCは同側の胸郭と局所リンパ節に限局し1つの照射野で
安全にカバーできる病変と定義されている。

ただし、国際肺癌学会(IASLC)のTNM病期分類が、
LSやESの分類を超えSCLCの予後を予測することが示され、
現在の日常臨床決定や臨床試験での使用が推奨されている。


Auperinらの7試験のメタアナリシスによれば
Complete response (CR)となったSCLC患者へのPCIにより

1. 脳転移の累積発生率の減少 (3y, 26%減少)
2. 全生存割合改善 (3y, 5.4%上昇)

を認めた。

🇺🇸RTOG0212では
CRTでCRとなったLS-SCLCに対して
2.5 Gyx10と高線量投与(1.8 Gyx18または1.5 Gyx24 bid)を行い、
2年の脳転移の累積発生率はともに25%ほどと変わらなかった。
結果、現在までPCIの線量は2.5 Gyx10が標準である。

PCIの問題点


このAuperinらの
メタアナリシスに含まれる試験は
病期分類のための転移検索で
PETや脳MRが使用される以前
のものである。

したがって
CR判定にも胸部単純X線を用いたものが
混在
している点は現在の診療とは異なっている。

そもそもES-SCLCも含まれ
化学療法と放射線療法のレジメンが異なること
一部の患者では導入化学療法を受けていたこと

解釈の難しさを生じる原因となっている。

SCLCへの効果的な治療が増えるにつれ
MRなし時代のデータを用いて
PCIをする必要があるのか。

CNS再発予防の必要性があるかは
議論がつきない。


PCIに伴う長期的な毒性として
神経認知障害が生じる
ことが示唆され、
QoL低下が懸念されている。

実際、RTOG0212では60%以上の患者が
治療後に神経認知機能の低下を経験
していることが明らかになった。

これまでWBRTの晩期毒性を軽減するために考えられてきた戦略には

1. 外科的摘出術後の腫瘍床への放射線療法
2. 定位放射線治療
3. 薬剤使用
4. 海馬線量低減

などがあり、PCIでは3, 4が戦略としてとりえる。

2の定位放射線治療については以前取り上げた。
3については先に述べたとおり
NCCN guidelinesでも
memantineの検討をと
言及されるようになってきた。


PCIでの海馬線量低減関連でみてみると、
そもそも脳転移のあるSCLCで
海馬への転移の発生率は5%以下

非常に低いことが報告されている。

たとえ大きな転移がある例でも
実際に海馬転移病変がある割合は
0.8%と非常に低いという報告もある。

したがって、海馬転移は頻繁にあるものではないといえる。

OC-0533によれば
HA-PCI後に
海馬領域に再発となった例はない
ことが<初期報告されている。

このように脳転移における海馬転移の頻度や
HA-PCI後の再発リスクは低く、
通常WBRT同様PCIでも
海馬線量低減戦略をとるのは
十分に あ り
と考えられる。

🇪🇸PREMER trial



目的
全脳放射線治療では海馬神経幹細胞が受けた放射線量は
神経認知機能の低下と関連しているとされる。

小細胞肺癌患者に海馬回避予防的頭蓋照射(HA-PCI)で
懸念されるのは海馬回避領域内での脳転移の発生である。

方法
この第III相試験では、
150名のSCLC患者(71.3%が限局性)を、
標準的な予防的頭蓋照射(PCI;25Gy×10分割)
またはHA-PCIに登録した。

主要評価項目は、
3ヵ月後のFCSRT(Free and Cued Selective Reminding Test)における遅延型自由想起(DFR)で、ベースラインから3ポイント以上低下した場合は低下とした。
副次評価項目は、その他のFCSRTスコア、QOL(生活の質)、脳転移の発生率と場所の評価、全生存率(OS)などであった。
データはベースライン時、PCI後3.0、6.0、12、24ヵ月後に記録された。

結果
参加者のベースライン特性は、2つのグループ間でバランスが取れていた。
生存者の追跡期間の中央値は40.4ヵ月。
ベースラインから3ヵ月後までのDFRの低下は、
HA-PCI群(5.8%)がPCI群(23.5%、Odds比5、95%CI、1.57–15.86、P = 0.003)に比べて低かった


すべてのFCSRTスコアを分析すると、
3ヵ月後のトータルリコール(TR;8.7%対20.6%)、6ヵ月後のDFR(11.1%対33.3%)、
TR(20.3%対38.9%)、トータルフリーリコール(14.8%対31.5%)、
24ヵ月後のTR(14.2%対47.6%)で低下が見られた。

脳転移の発生率、OS、およびQoLには有意な差はなかった。

結論
SCLC患者においてPCIで海馬を温存することは認知機能をよりよく維持する。
脳転移の発生、OS、QoLに関しては、標準的なPCIと比較して差は認められなかった

所感

memantineが保険診療上使用できない国🇯🇵でも
HA-PCIならできそうである。 (コストとれるか不明だが)

近々でるであろうASTROの
"Radiation Therapy for Brain Metastases"のdraftを見てる限り
一般WBRTにHippocampal avoidanceは確実に取り込まれてきそうであり
PCIでも日常臨床では当たり前になる可能性は高い。

殊、ASTROの方が変わるのは
🇺🇸NRG-CC003 (2027/04終了予定)の結果を経てからかもしれないが。